切削工具に管理番号を入れたい。ただ、超硬やハイス鋼のように硬い素材に、工具を傷めずに刻印できるのか。刻印が薄すぎて読めない、あるいは強すぎて工具が焼けてしまう、といった心配はないのか。
今回は、切削工具の再研磨を手がける事業者様からご相談をいただき、超硬エンドミルとハイス鋼エンドミルへの管理番号マーキングをお試し加工で実施しました。本記事では、加工パラメータ・加工時間・仕上がりに加えて、丸物のワークを扱ううえで見えてきた実務上の注意点まで、実際の写真とともにご紹介します。
事例の概要
ご相談をいただいたのは、切削工具の再研磨を手がける事業者様です。
再研磨した工具には、外径や工具番号といった管理情報を刻印して現場に戻します。この用途で、導入から18年が経過したレーザーマーキング機を使用されていましたが、設備の更新を検討する段階に入り、実際の仕上がりを確認したいとのご相談をいただきました。刻印する場所は、工具の柄にあたる円筒部分(丸シャンク)です。
お預かりしたのは、超硬エンドミルとハイス鋼エンドミル。刻印する内容は、工具1本ごとに割り当てられた管理番号です。

超硬(超硬合金)は、タングステンカーバイドなどの硬質な粉末を焼き固めた素材で、切削工具に広く使われています。一方のハイス鋼(高速度工具鋼)は、耐熱性を高めた合金工具鋼です。どちらも硬い素材ですが、組成も性質も異なります。材質の異なる工具が混在する現場で、同じ設備・同じ設定のまま刻印できるのかという点が、今回の事例の中心になります。
加工前にいただいたご相談
お試し加工の受付にあたって、事前に気になる点をお伺いしたところ、3つの懸念をお寄せいただきました。同じ用途を検討している方にも共通する論点だと思われますので、当社からの回答とあわせてご紹介します。
工具への「焼け」が心配
最初に挙がったのが、レーザーの熱によって工具が焼けてしまわないか、という懸念でした。
再研磨された工具は、そのまま切削に使われます。刻印を入れる工程で工具の材質に影響が出るようでは本末転倒です。刻印を入れる部位がシャンク(柄)であり、刃部から離れているとはいえ、熱の影響は事前に確認しておきたいポイントです。
材質ごとに照射の強さを変えられるか
超硬とハイス鋼では、レーザーに対する反応が同じとは限りません。材質に応じて照射の強さを変更できるのか、というご質問をいただきました。
こちらについては、操作用ソフトウェア上でレーザーの速度とパワーを調整でき、それによって刻印の濃さを変えられる旨をご回答しています。素材ごとに設定を保存しておけば、材質が切り替わっても呼び出すだけで対応できます。
文字の濃さと大きさはどこまで調整できるか
刻印の濃さに加えて、文字サイズの調整範囲についてもご質問をいただきました。
文字サイズは、大きい側は加工エリアいっぱいの110mmまで、小さい側は0.5mm程度まで対応できます。ただし最小サイズについては、線に太さを持たない単線フォントを使用し、かつ英数字に限られる、という条件が付きます。工具の管理番号のように英数字とハイフンで構成される文字列であれば、この条件に収まります。
加工内容と加工条件
使用機種と加工素材
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 使用装置 | LM110F 20W(加工エリア110×110mm) |
| 加工素材 | 超硬エンドミル、ハイス鋼エンドミル |
事前のご相談の段階で、テスト加工用として本番の点数より多めに工具をご送付いただきました。パラメータの調整には、実際の素材で試し打ちできる余裕があると精度が上がります。丸物の工具は円周方向に刻印できる面積が広いため、1本の中で複数回テストできるという利点もありました。

加工データと加工パラメータ
刻印する管理番号は、操作用ソフトウェア上でテキストとして作成しました。フォントはMSゴシック、文字高さは2mmです。細い素材については、シャンクの径に合わせて文字高さ1mmで加工しています。
| パラメータ | 設定値 |
|---|---|
| 速度 | 2000mm/sec |
| パワー | 50% |
| ハッチング | 0.05mm |
| 回数 | 1回 |
それぞれの項目が仕上がりに与える影響は次のとおりです。
- 速度(mm/sec): レーザーの照射地点が移動する速度です。速いほど薄く、遅いほど濃い仕上がりになる傾向があります(設定範囲は1〜4000mm/sec)
- パワー(%): レーザーの強度です。数値が高いほど濃く、低いほど薄い仕上がりになる傾向があります(設定範囲は1〜100%)
- ハッチング(mm): 塗りつぶしは細かい平行線を引き重ねて表現します。この平行線同士の間隔を設定する項目です
- 回数(回): 同じ箇所を繰り返し加工する回数です
上記以外の項目はデフォルト値のまま加工しています。
今回は、超硬とハイス鋼のどちらにも同一のパラメータを使用しました。材質ごとに設定を変えることも可能ですが、混在する工具を流していく運用を想定すると、共通設定で済むかどうかは確認しておきたいポイントです。
※加工パラメータについて
上記の数値はあくまで参考値です。加工機の状態や素材の状態、加工環境によっては同一の結果にならない場合があります。実際の設定値については、ご使用の機種のマニュアルをご参照ください。
1本あたりの加工時間
| 素材 | 加工時間 |
|---|---|
| 通常の素材(文字高さ2mm) | 約1.6秒 |
| 細い素材(文字高さ1mm) | 約1秒以下 |
管理番号1件あたりの加工時間は約1.6秒でした。文字高さ1mmで加工した細い素材については、刻印面積が小さくなる分さらに短く、1秒を下回っています。
再研磨のように工具が繰り返し戻ってくる工程では、刻印にかかる時間がそのまま1本あたりの処理時間に積み上がります。加工そのものが数秒で終わる場合、実際の作業時間を左右するのは工具の着脱と位置決めの手間のほうです。この点は後述する治具の話につながります。
加工結果
超硬エンドミルへの刻印
超硬エンドミルには、文字高さ2mmで管理番号を刻印しました。

お客様からお預かりした見本品と近い仕上がりで加工できています。管理番号は英数字とハイフンで構成される文字列ですが、桁数が多くても各文字が判別できる状態です。
懸念されていた工具の焼けは、確認されませんでした。
ハイス鋼エンドミルへの刻印
ハイス鋼エンドミルにも、超硬と同一のパラメータで刻印しています。

超硬とハイス鋼という材質の違いにかかわらず、同じ設定で同等の仕上がりが得られました。材質ごとにパラメータを組み替える必要がなかったという結果は、複数の材質の工具が混在する現場にとって扱いやすい条件といえます。
文字高さ1mmでの刻印
シャンク径の細い工具については、文字高さを1mmに落として刻印しました。

文字高さが半分になると、線の一本一本も細くなります。それでも管理番号として読み取れる状態を確保できました。ただし、この領域の仕上がりは写真だけで判断しきれない部分があるため、報告書でも実物でのご確認をお願いしています。細かい刻印の可否は、実際の素材でお試しいただくのが確実です。
加工を通じて見えた実務上のポイント
今回の加工では、仕上がりそのものとは別に、運用面で押さえておきたい点が2つ見えてきました。
パラメータを強めると表面にざらつきが出る
刻印の濃さは、パラメータの調整によって変えられます。ただし、濃くすればするほど良い、という単純な話ではありません。
今回のような金属への刻印は、レーザーで素材の表面を削る性質の加工です。そのためパラメータを強くしていくと、削られる量が増えて表面にざらつきが生じます。濃さと表面の滑らかさは、ある程度トレードオフの関係にあると考えたほうがよいでしょう。
読み取りやすさを優先して濃くするのか、表面の状態を優先して控えめにするのか。用途に応じた落としどころを、実際の素材で確認しておくことをおすすめします。
丸物ワークには転がり止めの治具が必要
もう1点、実運用に直結するのが工具の固定です。
エンドミルのような丸物は、加工テーブルに置いただけでは転がってしまいます。刻印中に素材が動けば、当然ながら文字は崩れます。今回の加工でも、素材が転がらないように固定できる治具のご用意をおすすめしました。
前述のとおり、刻印そのものは1本あたり数秒で完了します。つまり、繰り返し作業のなかで時間を左右するのは、工具をセットして位置を決める作業のほうです。丸物の工具をワンタッチで所定の位置に固定できる治具があれば、刻印の品質が安定するだけでなく、1本あたりの実作業時間も短縮できます。
レーザー加工機の導入を検討する際には、機械単体の性能だけでなく、ワークをどう固定するかまで含めて考えておくと、導入後の立ち上がりがスムーズになります。
お客様の声
加工報告書をお送りしたところ、次のようなご返信をいただきました。
テスト加工ありがとうございます。実際の工具を拝見したいので、返却をお願いいたします。加工レポートもありがとうございました。工具を拝見させていただいた後、検討いたします。
刻印の細かい仕上がりは、写真だけでは伝わりきらない部分があります。加工した工具はお客様のもとへ返送させていただきました。実物を手に取ってご確認いただいたうえで、ご検討を進めていただく予定です。
まとめ
切削工具の再研磨を手がける事業者様からのご相談で、超硬エンドミルとハイス鋼エンドミルに管理番号のレーザーマーキングを実施しました。
材質の異なる2種類の工具に対し、速度2000mm/sec・パワー50%・ハッチング0.05mm・1回という同一のパラメータで、見本品と近い仕上がりを得られています。懸念されていた工具の焼けは確認されず、1本あたりの加工時間は約1.6秒、文字高さ1mmの細い素材では1秒を下回りました。
一方で、濃さを求めてパラメータを強めると表面にざらつきが出ること、丸物のワークには転がり止めの治具が欠かせないことも、あわせて確認できた事例です。刻印そのものが数秒で終わる以上、実運用の効率を決めるのはワークの固定と位置決めの仕組みだといえます。
なお、他の素材への加工事例として、陽極酸化処理を施したアルミ板へのマーキング事例もご紹介しています。素材が変わると仕上がりの傾向も変わりますので、あわせてご覧ください。