金属切断機のカタログには「最大切断板厚」が記載されています。ただし、そこに書かれた厚さまでなら図面どおりの形状が出る、という意味ではありません。
今回は、同一の検証用データをアルミt1.5mmから鉄t10mmまで4種類の素材に切断し、板厚によって仕上がりがどう変わるかを確かめたお試し加工の事例をご紹介します。うまく切れた部分だけでなく、形状が崩れた箇所もそのまま掲載します。
この記事でわかること
事例の概要|「切れる板厚」ではなく「どこまで形状が出るか」を知りたい
ご相談の背景
ご依頼をいただいたのは、生産用治具の製作を担当されている製造業のお客様です。
現在は帯のこ盤(コンターマシン)で金属板を切断し、フライスで仕上げるという工程を取られています。この工程にかかる時間を短縮できないか、という観点から金属切断機の導入を検討されていました。
今回の検証テーマ
お客様が確かめたかったのは、「どこまでの厚さが切れるか」ではありません。
同じ図面データを板厚違いで切ったときに、仕上がりにどの程度の差が出るかでした。治具に使う部品は、外形が切れれば済むものばかりではありません。小さな穴やスリットが図面どおりに抜けるかどうかが、後工程の手間を左右します。
加工前の検討事項|同一データを板厚違いで切るという発想
「切れない限界」を確かめるためのテストパッチ
お客様は、この検証のためにDXFデータをご自身で作成されました。実際の治具の形状ではなく、大小の丸穴・角穴・細長いスリットを1枚の板の中にまとめて配置した「テストパッチ」です。
同じデータを4種類の素材に切れば、素材や板厚以外の条件がそろいます。どの形状がどの板厚で崩れ始めるのかを、横並びで比較できるという狙いです。

薄い側の板厚をどう考えるか
事前のやりとりでは、薄板側の目安についてもご質問をいただきました。
プラズマ切断は、溶かした金属を強いエアで吹き飛ばして切断する方式です。この仕組み上、薄い板ほど吹き飛ばす力の影響を受けやすくなります。弊社では、鉄・アルミともに1mm程度までの薄さを推奨としてご案内しています。
この目安を踏まえて、お客様には最も薄いものでアルミt1.5mmをご用意いただきました。
お預かりする素材サイズの決め方
お試し加工では、加工データより四方5cm程度大きな板材をご用意いただいています。切断の起点や固定のためにデータの外側に余裕が必要なためです。同じような検証を検討される場合の参考になるかと思います。
加工内容と加工パラメータ
使用機種と加工条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 使用機種 | PL950R(CNCプラズマカッター) |
| 加工素材 | アルミt1.5mm/鉄t2.5mm/鉄t10mm/ステンレスt3mm |
| 加工データ | お客様作成のオリジナルデータ(DXF) |
素材ごとのパラメータと加工時間
| 素材・板厚 | 使用プリセット | 変更内容 | 加工時間 |
|---|---|---|---|
| アルミ t1.5mm | アルミ1.5mm | 速度1000mm/min、電流値35Aに変更 | 約3分 |
| 鉄 t2.5mm | 鉄5mm | — | 約2分 |
| ステンレス t3mm | ステンレス3mm | — | 約3分 |
| 鉄 t10mm | 鉄10mm | — | 約5分30秒 |
鉄を対象とした加工時間の目安は、鉄を切断した場合の加工時間例でも別の形状で紹介しています。
※ 上記は今回の素材・環境での実測値です。加工機や素材の状態、加工環境によっては同一の結果にならない場合があります。
プリセットにない板厚をどう設定するか
PL950Rの専用ソフトウェアには、素材と板厚の組み合わせごとにパラメータのプリセットが用意されています。数値はユーザーが任意に変更・調整することもできます。
今回のようにプリセット一覧にない中間の板厚を切る場合は、厚い側のパラメータを使用します。鉄t2.5mmがこれに該当し、鉄5mmのプリセットを使って加工しました。
パラメータの主な項目は次の2つです。
- 速度(mm/min):トーチの移動速度。薄い素材ほど速く、厚い素材ほど遅く設定します
- カーフ幅(mm):切断時に素材が消失する幅。設定に応じてデータのサイズが拡大・縮小されます
薄板アルミだけ速度と電流値を調整した理由
4種類のうち、アルミt1.5mmだけはプリセットのままでは加工していません。
通常のパラメータでは切断形状に歪みが発生しやすかったため、速度を1000mm/min、電流値を35Aに変更したうえで加工しています。薄板では、切れるかどうかよりも形状を安定させることのほうが課題になる、ということです。
加工結果|4種類の仕上がりを見る
ここからは板厚の薄い順に、加工後の実物をご覧いただきます。
アルミ t1.5mm

パラメータを調整して加工しましたが、それでも形状の崩れが残りました。
特に目立ったのが、細長いスリット部分です。直線であるべき切断ラインが波打ち、溶けた金属が残って開口幅が部分的に狭くなっています。

また、小径の丸穴には真円にならない箇所も見受けられました。外周や大きな丸穴は比較的安定しているため、形状のサイズが小さくなるほど影響が出やすい傾向が読み取れます。
鉄 t2.5mm

4種類の中では最も安定した仕上がりとなりました。加工時間も約2分と最短です。
厚い側のプリセット(鉄5mm)を使用していますが、報告書に記載するような特記事項は発生していません。
ステンレス t3mm

こちらも特記すべき不具合は発生しませんでした。加工時間は約3分です。
鉄 t10mm

今回の4種類で、形状の再現性に最も差が出たのがこの板厚です。
小径の穴形状がつぶれています。 外形や大きな丸穴は問題なく抜けている一方で、小さな穴は開口として成立していない箇所があります。板厚が増すほど溶融する金属の量が増え、細かい形状ほど影響を受けやすくなるためです。
なお、加工時間は約5分30秒でした。
今回の事例からわかること
板厚が増すほど小径穴の再現性は下がる
4種類を横並びで見ると、外形の切断可否と、細かい形状の再現性は別の問題であることがはっきりします。
鉄t10mmは外形も大きな穴も問題なく切れていますが、小径穴はつぶれました。「切れる板厚」と「図面どおりに形状が出る板厚」は一致しません。カタログの最大切断板厚だけで判断せず、実際に加工したい形状で確かめる意味はここにあります。

薄板の課題は「切れるかどうか」ではなく「形状が安定するかどうか」
アルミt1.5mmは、切断そのものはできています。問題は、スリットの直線が波打ち、小径の丸穴が真円にならなかったことでした。
プラズマ切断は溶かした金属をエアで吹き飛ばす方式のため、薄板では素材が受ける影響が相対的に大きくなります。速度と電流値の調整で改善は図れますが、今回はそれでも崩れが残りました。
より高い寸法精度が求められる場合は、切断方式そのものを比較検討する必要があります。方式ごとの違いについては、ファイバーレーザー切断機とプラズマ切断機の違いで解説しています。
加工時間は板厚に単純比例しない
同一データですから、切断する長さはどの素材でも同じです。それにもかかわらず、加工時間はアルミt1.5mmが約3分、鉄t2.5mmが約2分と逆転しました。
これは、アルミのみ速度と電流値を変更しているためです。加工時間は板厚ではなくパラメータで決まる、と考えるほうが実態に近いと言えます。板厚10mmでも約5分30秒に収まっている点も、あわせて参考にしていただければと思います。
まとめ
同一の検証用データを、アルミt1.5mm・鉄t2.5mm・ステンレスt3mm・鉄t10mmの4種類にプラズマ切断しました。
外形や大きな丸穴は4種類すべてで問題なく切断できた一方、鉄t10mmでは小径穴の形状がつぶれ、アルミt1.5mmではスリットの直線が波打つ結果となりました。板厚が厚いほど、また形状が小さいほど、再現性は下がります。
加工時間は約2分から約5分30秒の範囲で、板厚よりもパラメータ設定の影響を受けていました。
導入前の検討では、最大切断板厚だけでなく、実際に加工したい形状とサイズで確かめておくことをおすすめします。