ドライフラワーとオイルを封じ込めたハーバリウムボールペン。その軸に名前が入れば、ギフトやノベルティとしての魅力はさらに高まります。とはいえ、中身が入ったまま熱を加えて大丈夫なのか、塗装された軸に文字がきれいに出るのかは、実物で試してみるまでわかりません。
この記事では、ハーバリウムボールペンへの名入れ刻印をお試し加工でお引き受けした事例を記録します。実際に使用した加工パラメータと仕上がりに加えて、うまくいかなかった点もそのまま掲載しています。
加工事例の概要
ご相談をいただいたのは、障害のある方の就労支援を行う福祉事業所です。作業の一環としてものづくりに取り組んでおり、ハーバリウムボールペンは売れ筋の自主製品とのことでした。
このボールペンは、上半分が透明の筒になったキットを使い、その中にドライフラワーとオイルを詰めて栓をしたものです。下半分は、色とりどりに塗装された軸になっています。

ご相談の内容は、「この下半分の塗装軸に、事業所名や個人名を刻印できないか」というものでした。名入れのサービスを展開したいが、そもそも実現できるのかどうかから知りたい、という段階でのお問い合わせです。
そこで、実際にボールペンをお送りいただき、お試し加工を実施しました。お預かりしたのは、加工用9本と予備3本の計12本です。
加工前に確認した3つの論点
加工に入る前、メールでのやりとりの中でいくつかの論点が出てきました。同じような素材を扱う方であれば同じ疑問を持つ可能性が高いため、この事例を借りて共有します。
ドライフラワーとオイルを封入したまま加工できるのか
お客様が最も気にされていたのが、「上部にオイルとドライフラワーが詰まっている状態でも加工できるのか。難しいなら、詰める前に加工することを検討したい」という点です。
調べたところ、封入した状態でも加工自体は可能ですが、熱によって内部のドライフラワーに変色や劣化が生じる可能性があることがわかりました。
そこで今回は、完成品の状態のままテスト加工を行うことにしました。その結果を実物で確認していただいたうえで、実際の運用では「詰める前」と「詰めた後」のどちらで加工するかを判断していただく、という進め方です。加工後のボールペンは、お客様のお手元で仕上がりを確かめていただけるようご返送しています。

使いたいフォントがそのまま使えるとは限らない
素材が到着したあと、「氏名の部分を、漢字のままの人、筆記体に変更する人、ローマ字や数字を入れる人に分けてテストしたい」というご要望をいただきました。
ここで制約が1つあります。操作用ソフトウェア上で選択できるフォントは、加工に使用するPCにインストールされているフォントに限られます。漢字や英数字は問題なく刻印できますが、筆記体フォントはインストールされていなかったため、そのままでは選択できませんでした。
ただし、DXF形式またはAI形式でデータをご用意いただければ、インストール済みフォントの制約を受けずに加工できます。今回は筆記体をご希望だった2本について、英字表記に変更して対応しました。
「このフォントで刻印したい」というご要望がある場合は、データ形式まで含めて事前に確認していただけるとスムーズです。
文字サイズは高さのみ指定できる
ソフトウェア上で文字サイズを指定する際、指定できるのは高さのみで、文字幅の指定はできません。
今回は、文字高さ3mm(2行の場合は6mm)でご指定いただきました。
加工内容と加工パラメータ
使用機種と素材
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 使用機種 | LM110F 20W(ファイバーレーザーマーカー) |
| 加工エリア | 110×110mm |
| 加工素材 | ハーバリウムボールペン(塗装された軸) |
| 加工本数 | 9本(ほかにテスト・予備用3本) |
加工エリアにボールペンを設置した様子が、下の写真です。

加工データと文字サイズ
加工データは、操作用ソフトウェア内で作成しました。フォントはMSゴシック、文字高さは1行の場合3mm、2行の場合6mmです。
刻印内容は、1行で個人名のみを入れるものと、2行で事業所名と個人名を組み合わせるものの2パターンがありました。
加工パラメータと加工時間
| パラメータ | 設定値 |
|---|---|
| 速度 | 1000mm/sec |
| パワー | 50% |
| ハッチング | 0.05mm(クロスハッチ) |
| 回数 | 1回 |
| 加工時間 | 約1.1〜7.7秒 |
各パラメータの意味は、次のとおりです。
- 速度(mm/sec):レーザー照射地点の移動速度。速いと薄く、遅いと濃い加工になる傾向がある(設定範囲1〜4000mm/sec)
- パワー(%):レーザーの強度。数値が高いほど濃く、低いほど薄い加工になる傾向がある(設定範囲1〜100%)
- ハッチング(mm):塗りつぶしは、細かい平行線を引き重ねて表現する。この平行線同士の間隔を設定する項目
- 回数(回):繰り返し加工する回数
上記以外のパラメータは、デフォルトの値のまま加工しています。
なお、ここに挙げたパラメータはあくまで参考値です。加工機や素材の状態、加工環境によっては、同一の結果にならない場合があります。
加工中の様子は、下の動画で確認できます。
加工ムラを抑えたクロスハッチ設定
パラメータの中で、今回の仕上がりを左右したのがハッチングの設定です。
前述のとおり、塗りつぶしは細かい平行線を引き重ねて表現します。通常の設定では、この平行線は一方向にのみ引かれます。
今回、通常の設定で加工したところ、加工ムラが発生してしまいました。そこで、縦横の両方向に加工する「クロスハッチ」の設定に変更したところ、より綺麗な仕上がりとなったため、こちらの設定を採用しています。
パワーや速度を変えなくても、塗りつぶしの引き方を変えるだけで仕上がりが変わる。今回の加工は、その一例といえます。
加工結果と仕上がり
加工前と加工後を並べると、次のようになります。

結論として、ハーバリウムボールペンの塗装軸への刻印は可能でした。ただし、すべてが理想的な仕上がりになったわけではありません。お試し加工報告書に記載した所見を、そのまま共有します。
塗装によって剥離しきらない箇所があった
刻印自体は入りましたが、塗装によっては剥離しきらずに残ってしまうものもありました。
今回お預かりしたボールペンは、1本ずつ軸の色や塗装が異なります。同じパラメータで加工しても、塗装の種類によって仕上がりに差が出た、ということです。
複数のカラーバリエーションを扱う場合は、色ごとにパラメータを調整する前提で考えておくと、安全に進められます。
2行の刻印は文字が伸び、加工が薄くなった
もう1点は、2行で刻印したものについてです。文字が伸びてしまったり、加工が薄くなってしまったりした部分がありました。
このため、2行の内容を一度にまとめて刻印するのではなく、1行ずつ分けて加工していただくほうがよい、とお伝えしています。
まとめ
ドライフラワーとオイルを封入したハーバリウムボールペンでも、塗装軸への名入れ刻印は可能でした。ただし、熱が内部に及ぶ可能性は残るため、封入前に加工するか封入後に加工するかは、実物の仕上がりを見て判断する必要があります。
仕上がりの面では、塗装の種類によって剥離の具合に差が出たため、カラーバリエーションごとにパラメータを調整する前提で考えるのが現実的です。また、2行の内容は一度に刻印するより、1行ずつ分けたほうが安定した結果になります。
そして今回、加工ムラを抑える決め手になったのは、パワーや速度ではなくハッチングの設定でした。塗りつぶしを縦横の両方向に引くクロスハッチに変更したことで、仕上がりが改善しています。素材ごとに、こうした設定の当たりを探す工程が必要になる、という点も含めての記録です。