PEEKやポリサルフォンといった樹脂、SKDのような焼入れ鋼に英数字をきれいに刻印できるのか——。素材によって刻印できるかどうかや仕上がりの色が変わるため、判断に迷う場面は少なくありません。
本記事では、これら3種の素材へのレーザーマーキングをお試し加工で実施した事例を、加工条件・仕上がり・加工担当者の所見までまとめてご紹介します。
加工事例の概要
今回のお試し加工は、金属・樹脂部品への英数字の刻印を検討されている製造業のお客様からのご相談がきっかけです。ご相談のなかで、特に刻印できるかどうかを確認したいとされていたのが、PEEK材・ポリサル樹脂・SKD焼入れ鋼材という3種類の素材でした。
これら3つの素材をお送りいただき、ファイバーレーザーマーカーで英数字(MSゴシック、文字高さ2.6mm)を刻印しています。樹脂と焼入れ鋼という性質の異なる素材を、同じ1台のレーザーマーカーでまとめて加工した事例です。
ご相談の背景|3種の素材それぞれで気になる刻印のポイント
3つの素材は、いずれも「レーザーで刻印できるのか」「どんな色・見え方になるのか」が事前に気になりやすい素材です。それぞれの特徴を簡単に整理します。
PEEK材(スーパーエンプラ)
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)は、耐熱性・耐薬品性・機械的強度に優れたスーパーエンジニアリングプラスチック(特に高い性能を持つ樹脂の総称)の一種です。樹脂は種類によってレーザーを当てたときの変色のしかたが異なるため、文字が見える色で刻印できるかが確認したいポイントになります。
ポリサル樹脂(ポリサルフォン/PSF)
ポリサル樹脂は、ポリサルフォンと呼ばれるエンジニアリングプラスチックの一種です。透明〜淡い色合いの樹脂で、耐熱性などに優れています。淡色系・透明系の樹脂は、刻印した文字がはっきり見えるかどうかが気になる素材です。
SKD焼入れ鋼材(合金工具鋼)
SKDは、金型などに使われる合金工具鋼を表すJIS(日本産業規格)の記号です。焼入れによって硬さを高めた状態で使われることが多い素材です。焼入れ鋼への刻印では、刻印できるかどうかに加えて、白っぽく見せるか黒っぽく見せるかといった仕上がりの色も検討材料になります。
使用機種と加工条件
使用機種
今回の加工に使用したのは、ファイバーレーザーマーカー「LM110C」です。仕様は以下のとおりです(事実情報のみ記載しています)。
- 種類:ファイバーレーザーマーカー(Qスイッチ型)
- 出力:30W
- 加工エリア:110×110mm
加工データと加工パラメータ
刻印する文字データは、レーザーマーカーのソフトウェア内で作成しました。フォントはMSゴシック、文字高さは2.6mmです。
素材ごとの加工パラメータと加工時間は、次のとおりです。
| 素材 | 速度 | パワー | ハッチング | 回数 | 加工時間 |
|---|---|---|---|---|---|
| PEEK材 | 1,000mm/sec | 50% | 0.05mm | 1回 | 約1.3秒 |
| ポリサル樹脂 | 1,000mm/sec | 50% | 0.05mm | 1回 | 約1.3秒 |
| SKD焼入れ鋼材(通常刻印) | 100mm/sec | 50% | 0.05mm | 1回 | 約6.1秒 |
| SKD焼入れ鋼材(黒色刻印) | 100mm/sec | 100% | 0.03mm | 1回 | 約3.7秒 |
表中のパラメータは、次のような意味を持つ設定値です。
- 速度(mm/sec):レーザーの照射地点が移動する速さです。速いほど薄く、遅いほど濃い加工になる傾向があります(設定範囲は1〜4,000mm/sec)。
- パワー(%):レーザーの強さです。数値が高いほど濃く、低いほど薄い加工になる傾向があります(設定範囲は1〜100%)。
- ハッチング(mm):塗りつぶしは、細かい平行線を引き重ねて表現します。その平行線同士の間隔の設定です。
- 回数(回):同じ箇所を繰り返し加工する回数です。
なお、上記以外の項目はデフォルト値で加工しています。これらの数値は今回の加工での参考値であり、加工機や素材の状態、加工環境によっては同じ結果にならない場合があります。
素材別の加工結果
ここからは、素材ごとに加工前・加工中・加工後の様子をご紹介します。
PEEK材
PEEK材は、速度1,000mm/sec・パワー50%・ハッチング0.05mm・1回の条件で加工しました。加工時間は約1.3秒です。仕上がりは黒い刻印になりました。

PEEK材のレーザーマーキング加工中の様子は以下のとおりです。
ポリサル樹脂
ポリサル樹脂も、PEEK材と同じく速度1,000mm/sec・パワー50%・ハッチング0.05mm・1回の条件で加工しました。加工時間は約1.3秒です。こちらも黒い刻印になりました。

ポリサル樹脂のレーザーマーキング加工中の様子は以下のとおりです。
SKD焼入れ鋼材|通常刻印と黒色刻印の2パターン
SKD焼入れ鋼材では、2つの加工方法を試しました。
1つ目は通常刻印です。速度100mm/sec・パワー50%・ハッチング0.05mm・1回で加工し、加工時間は約6.1秒でした。
2つ目は、あえて焦点をずらして加工する黒色刻印です。速度100mm/sec・パワー100%・ハッチング0.03mm・1回で加工し、加工時間は約3.7秒でした。通常は焦点を合わせて加工しますが、あえて焦点をずらすことで、酸化膜の影響により黒っぽく見える仕上がりになります。
なお、黒色刻印といっても真っ黒になるわけではなく、通常刻印・黒色刻印のどちらも、見る角度によっては茶色っぽく見えます。
焦点をずらして黒く見せる加工方法のしくみや手順については、ステンレスで検証したこちらの記事で詳しく解説しています。

SKD焼入れ鋼材(通常刻印)のレーザーマーキング加工中の様子は以下のとおりです。
SKD焼入れ鋼材(黒色刻印)のレーザーマーキング加工中の様子は以下のとおりです。
加工担当者の所見
今回のお試し加工では、3つの素材すべてで英数字の刻印が可能でした。
PEEK材とポリサル樹脂は、いずれも黒い仕上がりになりました。SKD焼入れ鋼材は、通常刻印に加えて、焦点をずらして酸化膜の影響で黒っぽく見せる加工方法でも刻印しています。前述のとおり、どちらも真っ黒ではなく、角度によっては茶色っぽく見えますが、いずれの素材も文字の視認性は問題ないレベルでした。
ただし、細かい文字の仕上がりや、機械での読み取りが必要な場合の読み取り可否については、実際の用途に合わせて手元の素材で確認することをおすすめします。
まとめ
PEEK材・ポリサル樹脂・SKD焼入れ鋼材という性質の異なる3素材に対し、1台のファイバーレーザーマーカーで英数字を刻印した事例をご紹介しました。
3素材いずれも刻印が可能で、樹脂2種は黒い仕上がり、焼入れ鋼は通常刻印と黒色刻印の2パターンを比較できました。素材ごとに最適なパラメータや仕上がりの色は変わるため、刻印できるか・どんな見え方になるかに迷う素材ほど、実際の素材での確認が有効です。同じような素材への刻印を検討する際の参考になれば幸いです。